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2021.07.30

佐々木まなび◆雨を、読む。    …………季語にない美しいことばが並ぶ“雨のことば”辞典

202105


――辞書には、載っていない“ことば”がある。
宮川町に住んでいた頃、事務所を兼ねていたこともあり、
打ち合わせの後、お見送りがてら花街の石畳を歩くことがあった。〔…〕

夜の花街は、格子越しに、遠く、華やかな音が聞こえてくる。
――大好きな時間だ。
同じ音を聞いていたのだろう。


ふと、その方が
「こういう、舞妓さんの声とか、三味線の音が聞こえてくるのを
“もらい音”っていうねんて」と笑顔で教えてくださった。

〔…〕この“もらい音”は、花街に住む方たち、
「お母さん」「お姉さん」「地方さん」「芸妓さん」「舞妓さん」たちが使う廓の中のことば、なのだ。

――「載らないことば」

 

◆雨を、読む。 佐々木まなび/2021.05/芸術新聞社


 雨のことば辞典である。
たとえば「五感の雨」を引いてみる。季語にない美しいことばが並ぶ。

・視覚
雨窓(うそう)……雨の降る様子を映す窓辺。 
雨絣(あまがすり)……絣文様の一つで、経糸にのみ絣糸をずらして織り入れること。不規則に見える直線が雨に見立てられ、この名がついた。「雨縞」ともいう。

・聴覚
雨嘯(うしょう)……雨に濡れながら歌うこと。「嘯」はうそぶく、口笛のこと。
雨打(あまうち)……雨が打つこと。また、打たれること。「雨打際」の略で、軒から落ちる雨だれが当たる所という意味もある。

・臭覚
雨香(うこう)……花の香りを含んで降る雨のこと。花の香りだけでなくとも「雨の匂い」は、森の香りを含んだり、土やアスファルト、また同じ水なのに、海や湖の香りもする。
香雨(こうう)……よい香りのする雨。雨の美称として使うこともある。

・味覚
苦雨(くう)……人を苦しませるほど、何日も降り続いている雨。苦痛というよりは、苦い思いと苦い味がたっぷり入っていそうな名前。
甘雨(かんう)……草木を育てる春の雨。恵みの雨のことをこう呼ぶ。

・触覚
冷雨(れいう)……晩秋に降る冷たい雨のこと。この雨が降ると、実際の気温よりも寒く感じられる。
凄雨(せいう)……ぞっとするはど寒い雨。凄まじくぞっとするという意味が文字に含まれる。風が強く、激しく降る雨。

・そして、六感
遣らずの雨(やらずのあめ)……客や恋人が帰る頃になると、引き留めるかのように降り出す雨のこと。留客雨と同意。
霊雨(れいう)……降るべきときに降る、よい雨。「佳雨」と同意。また、不可思議な雨のこともいう。

 著者佐々木まなびは、本書に、「気配、闇、間」を好み、それらを意識したデザインを追求し、茶道、美術館、劇場関係のグラフィックデザインを手がける、とあり、ネットには「毒気、想像を掻き立てるものを好む」とある。

 手元においておきたい1冊である。

 

 

 

 

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