柳原滋雄◆疑惑の作家「門田隆将」と門脇護 …………ベストセラー作家にして、“著名なネトウヨ”の裏事情
門田の代表作『死の淵を見た男』では、吉田所長に長時間のインタビューに成功しながら、刻々と進む対応策ばかりに取材の時間を費やしたためか、本店時代の津波対策が正面から取り上げられていない。〔…〕
この作品を「東電が欲した物語」と評する人さえいる。
結果的に、東京電力について都合の悪い事実が書かれていないからだ。
吉田所長については、「本店の吉田」「現場代表の吉田」「東電の吉田」の3つの立場があるとされるが、この本で書かれたのが「本店の吉田」でないことだけは確かだ。
日本人を救うために奮闘した素晴らしい人びととして描くには、都合の悪い事実は作品の設定段階から省くほうがよい。
◆疑惑の作家「門田隆将」と門脇護 柳原滋雄/2021.01/論創社
上掲の『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(2012)は、F1の内部から3.11を描いたベストセラー。のち「Fukushima 50」として映画化された。
“悪役”菅直人首相に立ち向かう“英雄”吉田所長という役割である。当方もあの悲惨な事故と東電への憎しみに対し、どこかに“英雄”がいなければ救われないと思った。
本書からの孫引きによれば、吉田所長のインタビューが成功したのは、……。
「私は、吉田さんの幼馴染みや親友、恩師、同僚、先輩、上司……等々を訪ね、手紙を出し、さまざまなルートを辿って吉田さんにアプローチした」、また、「だれでもそうですが、この人の言うことには逆らえないという人が1人や2人はいるはずです。そういう人を探し出し、複数のルートから依頼を行いました」
本書のもくじを掲げておこう。
第1章 最高裁から「盗用作家」の烙印押された前歴
第2章 門田隆将の来歴「週刊新潮」時代の門脇護
第3章 「右派論壇のヒーロー」から「ネトウヨ」への凋落
第4章 「デマ屋」が放ったアメリカ大統領選挙の無数のデマ
第5章 門田隆将ノンフィクションの虚構
第6章 馬に喰わすほどある“言行不一致”語録集
第7章 山本七平賞受賞作の「大量パクリ疑惑」対照表(角川文庫・37カ所)
著者は執筆の“真意をこう記す。
――週刊誌話者時代から多くの捏造記事で他人を傷つけ、さらに第三者の血と汗の結晶ともいえる作品から記述を盗み取り、裁判所から断罪された過去をもつ作家が、なぜいまも平然と仕事を続けられるのか。〔…〕
「盗用」や「捏造」を指摘される書き手を“金の成る木”として重用し、自社の金儲けの道具として今も活用する出版社や編集者にも警鐘を鳴らしたい。 (本書)
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