味田村太郎◆この世界からサイがいなくなってしまう アフリカでサイを守る人たち …………「子どものための感動ノンフィクション大賞」最優秀賞受賞作
キタシロサイの数は激減し、1960年代には、2千頭ほどが残っていましたが、1990年代に入ると数十頭にまで減少します。
そして2008年ごろには、アフリカの地に野生のキタシロサイはいなくなってしまいました。
幸いだったのは、かつてアフリカの国ぐにから、ヨーロッパのチェコ共和国の動物園に送られた数頭のキタシロサイがまだ生きていたことです。
これらのサイをもう一度、アフリカ大陸にもどして子どもを産んでもらい、キタシロサイを絶滅から救おうというプロジェクトが始まりました。
2009年には、チェコから4頭のキタシロサイが東アフリカのケニアにあるオルぺジェタ自然保護区に到着しました。
◆この世界からサイがいなくなってしまう アフリカでサイを守る人たち 味田村太郎/2021.06/学研プラス
南アフリカの人たちに人気がある野生動物は「ビッグ・ファイブ」と呼ばれる、ライオン、ヒョウ、ゾウ、バッファロー、サイ。
このうち密猟によって激減しているのは、ゾウとサイ。
象牙は、印鑑、箸、麻雀牌、耳飾りなどが思い浮かぶが、ピアノの鍵盤、扇子、義歯などさまざまな用途に利用されてきた。また犀角は、科学的に効能はないとされているが、漢方薬として解熱剤として古来から使用され、最近はガンに効くてとの噂がひろまった。
象の密猟に関しては、朝日新聞記者の三浦英之『牙 アフリカゾウの「密輸組織」を追って(2019)』に詳しい。
本書は児童向け環境ノンフィクション・シリーズの1冊として、サイと密猟者、サイを守る人たちの“戦い”を描いたもの。
さて、アフリカで絶滅したキタシロサイの“復活”のため2009年にチェコから4頭が到着したという上掲の続き……。
だがオスの2頭は、2014年、2018年に相次いで死んでしまい、メス2頭が残される。ここで科学の力でキタシロサイを絶滅から救おうと「バイオ・レスキュー・プロジェクト」という国際研究チームが結成される。その一人が九州大学の林克彦教授。iPS細胞の研究を始め、iPS細胞からマウスの卵子を作り出し、健康なマウスを誕生させた。
――しかし、研究にはさまざまな困難があります。実験でよく使われるマウスの妊娠期間は3週間です。これに対して、サイの妊娠期間は16か月で、くりかえし実験をおこなっていくためには、10年単位の長い時間がかかります。〔…〕
2020年1月、林教授も参加する国際研究チームの仲間の研究者たちがキタシロサイの復活にむけて一歩、前進しました。ケニアに残っているキタシロサイの最後のメス2頭から取りだした卵子と、保存していたオスの精子とを受精させ、人工的に受精卵を3個作りだすことに成功したと発表したのです。 (本書)
成功を願わずにはいられない。
著者味田村太郎は「はじめに」で、「わたしの仕事は記者です。アフリカの国ぐにの取材を担当するため、2014年から4年間、南アフリカ共和国でくらしました」と自己紹介をしている。
じつは当方、味田村記者に20数年前にある事件で取材を受けたことがある。当時氏はNHK神戸支局の記者で、まだ20代だったと思う。取材の終わりに、お疲れが出ませんようにとねぎらいの言葉をかけられた。珍しい姓とともに記憶に残っている。
その後、記者はニュース番組でヨーロッパやアフリカからのレポートを何度か見た。本書の略歴によれば……。
味田村太郎(ミタムラタロウ)
1970年生まれ。NHK記者。慶應義塾大学在学中よりアフリカで支援活動を行う。2014年から、初代ヨハネスブルク支局長として、アフリカ30か国以上で取材。紛争で苦しむ人々や、野生動物をめぐる問題、エボラ出血熱などについて取材を行う。『この世界からサイがいなくなってしまうーアフリカでサイを守る人たち』にて、「第8回子どものための感動ノンフィクション大賞」最優秀賞を受賞。
――新型コロナウイルスも、もともとの感染源は野生動物とみられています。
新型コロナウイルスの拡大は、わたしたちに野生動物を保護することの大切さを改めて伝えることになりました。野生動物たちの命を守るということは、じつは、あたしたちのくらしを守ることにもなるのです。(あとがき)
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