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2021.10.17

吉田修一◆ブランド    …………“前菜集”という単行本未収録作品から名セリフを探す

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「出会いがあれば、別れがある」とよく言われるが、ときどき別れなどないのではないかと思うことがある。
もちろん距離や気持ちが離れることはあるかもしれないが、

  どんなに距離が離れても、どんなに気持ちが離れでも、出会ったという事実はなくならない。

 この事実だけを積み重ねて、人は生きているような気がしてならない。

――「絆」(「AERA」2007年3月/セイコーエプソン)

 

◆ブランド  吉田修一 2021.07/KADOKAWA


広告×文学
一流ブランドには
物語がある

 これは出版社のキャッチコピー。企業の依頼で描いてきた小説、紀行、エッセイを収録したもの。
 巻末に、エディトリアル・ディレクター田中敏恵の著者へのインタビューが掲載されていて、インタビュアーはしきりに“前菜”だと言っている。

 ――小説をレストランで喩えると、『悪人』を含め、この十年の吉田修一作品にはステーキのようなメインディッシュが多かったように思うんです。けれどここにあるものはメインではなく前菜のような存在。〔…〕

 世界中の気鋭のシェフが採用している、前菜のプレゼンテーションがいくつもあるスタイルによって、シェフの腕とテクの幅の広さみたいなのがいくつも散見できます。

 著者も苦笑気味に「吉田修一前菜集」と答えている。「前菜=オードブル」を直訳すると、「作品の外」「番外の作品」ではなかったか。要するに落穂ひろいの「単行本未収録作品」である。が、吉田修一ファンには言うまでもなく垂涎もの。

 当方は著者のANA機内誌『翼の王国』掲載のエッセイ『あの空の下で』、『空の冒険』など旅ものの“前菜”を愛読している。が、“メインディッシュ”は最近読んでいない。

 本書でも旅を扱ったものが多い。

 ――ほかの都市の夜市がもしも「狂乱」の一歩手前であれば、ここルアンパバーンの夜市は、「静寂」の一歩先という印象が強い。
狂乱と静寂。

本当に凄まじいのは、実は静寂のほうかもしれない。


(「南国の気配。」/「Esquire」2005年)

 ――旅先で迎える朝ほど、清潔なものはないと思う。

 おそらく見慣れた時計の中にある「朝」という時間帯ではなく、人間の身体の中にある「朝」という感覚を、旅先では思い出せるのだろう。(同上)

 

 ――「全てを用意しました。何を選ぶかはあなた次第です」
いつ訪れても、香港はこう語りかけてくる。


(「鏡合わせの街」/「THE GOLD」2010年/JCB)

 タイアップ広告として書かれたものなので、ちょっと気取った装いも多い。

 

 ――今日、35歳になった。〔…〕

① たまには空を見上げているか?
② 5ヵ国語以上の言葉で「ありがとう」と言えるか?
③ 映画『ダイ・ハード』を観て、まだ泣けるか?
④ 好きな女はいるか?
来年の誕生日が楽しみか?
指折り数えて、5つの質問に答えていく。幸い今年も全ての質問に気持ち良く〇がつく。

(「NIGHTCOLOR」シリーズ=「BRUTUS」2012年/パナソニック)

 

 

 

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