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2021.10.07

岸田奈美◆もうあかんわ日記         …………奈美さんと良太さんみたいな姉弟のあり方って、めずらしいと思うんです。いつからそうなんですか?

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 いいか悪いかをジャッジするのは、いつだって、優れた人ではない。多数派の人たちだ。

 弟はたぶん、言葉も文化も通じない、宇宙人がいる火星で暮らしているようなものだ。見様見真似で彼らの文化に合わせ、コミュニケーションを学び、交信しようとしている。
弟には、そういう力がきっとある。もの言わぬなにかを、じっと見つめて、ありそうもない感情や物語を、受け取る力が。

 この地球に宇宙人がやって来て、共生するとなったら、ストレスフリーですぐに順応できるのはきっと、弟たちだ。それは人類にとっては、大変な戦力なのではないか。

 いまだに言葉やルールなんてものを使って遅れているわたしたちに、ダウン症の人たちはしかたなく合わせてくれていると思うんですよね。

 彼らにとっては、そんなものに頼らないと生きられないわたしたちの方が、障害者なのかも。

誤解をはちゃめちゃに生むと思うので、これは、記事では伏せておいてほしいんですけど。

 

◆もうあかんわ日記 岸田奈美 2021.05/ライツ社


 神戸といっても山奥の団地。中2の時父は心筋梗塞で突然死。母は大動脈解離の手術痕から感染症心内膜炎を患い車いすユーザー、弟はダウン症、祖母はニンチ。

 岸田奈美(1991~)は書く。「悲劇を、喜劇にする、一発逆転のチャンスがほしい。〔…〕
でも、このまま1人で抱えとったら、もうあかんわ。そんな経緯で始めたのが、この『もうあかんわ日記』だ」。

 肝っ玉母さんというか底抜けに明るく前向きな母にして、そっくりな娘(著者)あり。

 だがここではダウン症の弟のことのみメモする。

 ――弟は障害者だ。ダウン症で、知的障害。
でも、彼の特性は、成長がとてもとても、ゆっくりであること。言葉をうまく話せず、コミュニケーションが難しいこと。環境の変化や暖味な空気の理解が、苦手なこと。
 それは障害なんだろうか。
 社会生活のなかで生きてる人には、わたしのように言葉がわかって、それなりに変化に順応できる人が、たまたま多いだけで。
 言葉を使える人が多いから、しかたなく、使いづらい人たちも合わせてくれているだけで。

 わたしたちがスムーズに生きていくために都合がいい人を「健常者」、都合が悪い人を「障害者」と呼ぶのは、なんかずっと、ぎこちない違和感がある。 (本書)

 そして上掲の宇宙人の話につながる。

202009

 

 前著『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(2020・小学館)にこんなエピソードが書かれている。

 著者が高校生だったころの話。4歳下の弟がペットボトルのコーラをもっていたと母が大騒ぎしていた。知的障害があるためお金をもたせていないのに。もしかしたら万引きした? 問い詰めると弟はコンビニのレシートをとりだした。購入の証である。
だが裏をめくると「お代は、今度来られるときで大丈夫です」と書かれていた。

 ――「息子さんはのどが渇いて、困ったから、このコンビニを頼ってくれたんですよね」
「えっ?」
「頼ってくれたのがうれしかったです!」
コンビニのオーナーさんだった。 (同書)

 その後、弟はちゃんとお金をもって、コンビニへ行くようになり、なんと、おつかいまでこなすようになった。「とんでもない成長である」。

 以下、写真家の幡野広志さんの言葉……。

 ――「奈美さんと良太さんみたいな姉弟のあり方って、めずらしいと思うんです。いつからそうなんですか?」〔…〕

「障害のある兄弟や姉妹をもつ人って、我慢したり、憎んだり、不仲になったりしてしまう人も多いように思うから」 (同書)

 

 

 

 

 

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