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2021.12.06

坂崎重盛◆季語・歳時記巡礼全書    …………日本のホテルに和英版俳句歳時記が置かれるのを夢見る

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 思えば俳句歳時記、季寄せは、日本の言語空間に生きつづけてきた。ということは日本人の風土、生き死にとともにあった、そら恐ろしいほど重厚的な感情や、イメージの発露を記録、編集した、日本文化の総合辞典であったのである。

 歳時記が日本人にとっての聖書といわれる道理である。
と、すれば、たとえば日本の一流ホテルの各室に和英版でもよし、和仏版でもよし、俳句歳時記の類が置かれていてもよいのではないか。

 季語・歳時記巡礼をなんとか、まがりなりにも無事終えたいま、もしや、日本のホテルに、常備されている、歳時記のページを気ままにめくる幻影を思い浮かべるだけで、この道楽、愚行も少しは報われる気もしてくる。
 幻しは、時として現実になる。

◆季語・歳時記巡礼全書 坂崎重盛 /2021.08/山川出版社


 著者にとって神田神保町古本散歩は中毒、宿痾のようなもの。店頭の均一台の背表紙から「俳」の字が飛び込んでくる。明治以降の俳書が安く売られている。こうして歳時記など俳句関連本が約80種類が手元に(種類と書いたのは歳時記は春夏秋冬新年と分冊になっているため冊数で数えない)。雑誌連載10年、こうして500ページの大冊ができあがった。

 当初は“季語道楽”として、美しい、珍しい、面白い、難解な季語に関心をもっていたが、やがて優れた歳時記の選定、すなわち書評の方向へ動いていく。

 自分にふさわしい歳時記が本書で見つかるか。

 当方が所蔵している古いものに高浜虚子『新歳時記 増訂版』(1934年初版・1987年増訂50刷)があるが、これはよほど暇なときにぱらぱらと読む。季語を学ぶのには水原秋櫻子『俳句歳時記』(1978年初版、1995年講談社文庫)。類語を知るには日外アソシエーツ編『逆引き季語辞典』(1997年)。作句の参考にするには角川書店編『合本俳句歳時記第三版』(1997年)だが、角川文庫版5冊がぼろぼろになったので合本版に買い替えたもの。

 文庫版は現在第四番増補まででているが、掲載句がいちばん肌に合うのが第三版である。つまりは当方の俳句は昭和の終わりごろで止まっている。

 自分にふさわしい歳時記とは、発行年によって決まる。すなわち掲載句を選定した俳人、編集者が、読者である自分自身に年齢的に近いかによる。俳句は時代をまともに反映する。それが本書を一読した結論である。

 

 

 

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