池澤夏樹/本橋成一■ イラクの小さな橋を渡って
2001年の秋から、「ニューヨーク・タイムズ」は世界貿易センタービルの被害者一人一人の人生を詳しく辿る連載記事を載せた。テロでも戦争でも、実際に死ぬのは家族も友人もある個人だ。だからテロというものを徹底して被害者の立場から、殺された一人ずつの視点から見るという姿勢は大事だ。
しかし同じ新聞がアフガニスタンの戦争のことは抽象的な数字でしか伝えない。アメリカ軍が放つミサイルの射程はどこまでも伸びるのに、メディアの視線は戦場に届かない。行けば見られるはずの弾着の現場を見ないまま、身内の不幸ばかりを強調するメディアは信用できない。
だから、自分の目で見ようと思ってぼくはイラクに行った。バグダッドで、モスルで、また名を聞きそびれた小さな村で、人々の暮らしを見た。ものを食べ、互いに親しげに語り、赤ん坊をあやす人の姿を見た。わいわい騒ぎながら走り回る子供たちを見た。そして、 この子らをアメリカの爆弾が殺す理由は何もないと考えた。
■ イラクの小さな橋を渡って|池澤夏樹・文/本橋成一・写真|光文社|2003年01月|ISBN:9784334973773
★★★
《キャッチ・コピー》
米国がいつ攻撃するかわからない2002年10月末のイラクに行った。
国民はほんとうにサダム・フセインの圧制下に苦しんでいたのか?
経済制裁下で食べ物も足りない貧しい国だったのか?
冷静な著者のレポートは、メディアでは報道されない真のイラクの人々の姿を淡々と綴っていく。
《memo》
開戦以前の2002年のレポートなので、掲載されている地図にサマワという地名はない。
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