◆2009年おすすめ本

小林信彦◆黒澤明という時代

20091104kobayashikurosawa

改めて思うことだが、〈黒澤流ヒューマン・アクション〉が存分に発揮されたのは、「姿三四郎」(昭和18年)から「天国と地獄」(昭和38年)までであった長い時間が過ぎたから、冷静に判断できるのである。

太平洋戦争末期から公害まみれの東京オリンピックの前年まで――それが黒澤明という名の象徴する時代であった。敗戦・戦後から歪んだ高度成長まで、と言ってしまっては、単純化しすぎるのであるけれども。

そして、名前が巨大になり過ぎた。それ以後は、絵画的で静的な世界に沈んでいった。私はそう見ている。

◆黒澤明という時代|小林信彦|文藝春秋|ISBN9784163717203200909

★★★★

《キャッチ・コピー》

〈世界のクロサワ〉の全作品をその公開時に見ることをつづけてきた著者が書く、時代と格闘してきた映画作家の栄光と挫折、喜びと苦悩。

《memo》

“老いたり”の感つよく、リアルタイムで小林信彦の新著を読むのも残り少なくなってきたと思っていたが、映画の話となると“小林ぶし”衰えず。

橋本忍■ 複眼の映像――私と黒澤明

田草川弘■ 黒澤明vs.ハリウッド――『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて

| | コメント (0) | トラックバック (0)

佐藤優◆交渉術

20091027sathokousyoujtyutu

「鈴木宗男を潰すことで頭がいっぱいで、外交について考える余裕がなかったのでしょう」

米原さんは、「そうねえ」と溜息をつき、こう続けた。

「それにしても外務省は、CIA、KGB並みの謀略能力をもっているのに、どうして本業の外交でその力を使わずに、自己保身や内部抗争のために使うのかしら」

「外務官僚にとっては、北方領土問題や北朝鮮の拉致問題を解決するよりも、鈴木宗男さんを叩き潰すことが省益と考えたからです。それだから、この闘いに外務省の英知を結集した。そして川口(外務)大臣と竹内(外務事務)次官が勝利したんです」

「どうしてそこまでして鈴木さんを潰す必要があったの」

「それは鈴木さんが知りすぎたからです」

◆交渉術|佐藤優|文藝春秋|ISBN9784163685809200901

★★★★

《キャッチ・コピー》

交渉を通じて、官僚としての佐藤優を再検証する。外交官として、官僚として、交渉の最前線で闘ったスリリングなメモワール、かつ実用書。

memo

マスコミでの評判とは全く異なる橋本、小渕、森という3人の総理大臣が語られている。この稿により森喜朗と加藤紘一とが和解したという。鈴木宗男VS外務省の深層も、畏友米原万里の意外な言動も明かされる。

佐藤優◆「諜報的生活」の技術――野蛮人のテーブルマナー

佐藤優◆外務省ハレンチ物語

| | コメント (0) | トラックバック (0)

草森紳一◆本の読み方――墓場の書斎に閉じこもる

20091021kusamorihon

ダイアン・ジョンスンの『ダシール・ハメットの生涯』の中に、一日中、坐って本ばかり読んで外出しないスランプ中の彼に対する家政婦のローズの次のような発言がある。

「彼は本を読み終えるといつも、それを暖炉のなかへ投げこんだ」〔…〕

「彼はただ、それらの本と縁を切りたかっただけなのだ。ほかにどんな理由があるだろう? 本は火格子のなかでゆっくり燃え、ゆっくり焼け焦げ、やがてぱっと燃え上がる。彼は炎のそばに腰をおろし、燃えゆく本の誘いこむような光を浴びながら、スコッチをすこしずつ口に運ぶ

もともと彼は蔵書なぞに興味なく、積み上げた本の上に平気で腰かけるタイプであるが、この場合書けない自分をじっとみつめている所作だともいえるだろう。

――「大きな無花果の木」

◆本の読み方――墓場の書斎に閉じこもる|草森紳一|河出書房新社|ISBN9784309019284200908

★★★★

《キャッチ・コピー》

本を読む。読みたいから読む。やむにやまれずただひたすらに。読み疲れてまどろんだりしても、それも読書のうちである。ただその本とある時間と空間を愛するのみ。読書の歓びとは、本とある快楽の追求以外のなにものでもない。

memo

三餘、すなわち冬・夜・雨……。これが読書にふさわしい三つの余暇。三餘の故事を紹介し、読書は「三餘を以てすべし」の発想は、農耕文化のものだと説く。すなわち、冬・夜・雨は農業にとってお手あげの時である、と。著名人たちの読書にまつわる挿話23篇。エッセイの名品である。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

立川昭二◆年をとって、初めてわかること

20090905tatsukawatosiwo

文学作品はけっして絵空事ではない。それは「事実」以上に「真実」を物語っている。ということは「物語」は私たちのまわりに生きているのである。

そしていま、ここでつき合ってきた作者や作品の登場人物たちに別れを告げるにあたってあらためて思うことは、彼らが語ってくれたことはいずれもみな、彼らが年をとって初めて体験したことばかりであったということである。

「年をとって、初めてわかること」の中には「わからないことがある」ことも含まれている。

「わからない」ゆえに味わう驚き喜びというものもある。

                                 

人には、年をとって初めてわかる驚きがあり、年をとって初めてわかち合える喜びがある。老年こそは自己発見と相互再生の黄金の季節なのである。

◆年をとって、初めてわかること|立川昭二|新潮社|ISBN9784106036125200807

★★★

《キャッチ・コピー》

老いがもたらすものは喪失と寂寥ばかり?いや、老いたからこそ知る自己発見の驚き、人と分かち合う喜びが、そこにある。心と体。エロス。孤独。共生。愉しみ。看取り―思いもよらなかった「老い」の豊饒な世界を、名作文学のなかにしみじみと読み味わう。

memo

老いをあつかった小説ガイド。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

国末憲人◆サルコジ――マーケティングで政治を変えた大統領

20090713kunisuesarukoji

それまで、フランスの政権はエリート校のグランドゼコールを出た高級官僚によって牛耳られていた。〔…〕

国立行政学院(ENA)の出身者である。彼ら優秀な人々がすべてを仕切ることによって、フランス政治はエリートによって支えられている、との印象が定着していた。

サルコジは、このイメージの大転換を図った。〔…〕老練ですましたエリートの男たちでなく、アラブ移民二世やスポーツ選手出身の若く図々しい男女なのである。

フランスを支配するのは最早、親から財産と教育環境を受け継いだ受験勉強の秀才ではない。様々な分野で自らを売り込むことに成功した人々なのだ。

つまり、サルコジのように努力と野心ではい上がってきた成り上がり者たちなのである。

彼らに共通するのは、それぞれの人生がそのまま、注目に値する物語となっていることだ。

彼ら一人ひとりが成功者であるとともに、自らのサクセス・ストーリーを語ることもできる。そのような人物こそをサルコジも、メディアも、市民も求めていたのだ。

*

◆サルコジ――マーケティングで政治を変えた大統領|国末憲人|新潮社|ISBN9784106036361200905

★★★★

《キャッチ・コピー》

東欧移民二世の小男。結婚3回で妻は奔放なスーパーモデル。酒を呑まず、文化にも興味なし。私生活は世にさらし、公衆の面前で平気で他人を罵倒する─。「ストーリーテリング」というマーケティング技術を活用し、大衆の視線を常にひきつけるその政治手法を、気鋭のジャーナリストが解き明かす。

memo

「クリントン、ベルルスコーニ、ブレア、シュレーダー、サバテロ。彼らが登場した時、そのあまりの薄っぺらさにみんな驚いたものだよ。サルコジの登場でフランスもようやく追いついた(笑)」 (本書)。なるほど、日本の安倍や麻生、若い議員、知事連中の薄っぺらさも時代の必然だったのか。

バラク・オバマ/白倉三紀子:訳■ マイ・ドリーム――バラク・オバマ自伝

| | コメント (0)

辺見庸◆しのびよる破局――生体の悲鳴が聞こえるか

20090701henmissinobiyoru

「われわれはみな携帯電話を内蔵した存在になった」

とジャン・ボードリヤールが書いたのは早くも1990年代でしたが、事態はいま、文化論の象徴表現的次元をこえて、はっきりと現実化しています。

人間が携帯電話を身体に内蔵したような生きものになってしまったことは、秋葉原事件の青年だけでなく多くの人が認めざるをえない事実なのです。

ボードリヤールは「生活とイメージの過剰接近」や「時間的・空間的隔たりの無力化」により人間社会に「重大な混信状態」が生じるだろうと予言していますが、いまがまさにそれです。秋葉原事件はボードリヤールの予感の現実化ともいえます。〔…〕

いまや、ぼく自身が異様ともおもわないし、携帯を非常に多用して、依存もしている。〔…〕

すべてのコミュニケーションがじつのところ、なりたっているようでいて、「重大な混信状態」におちいっているとぼくは感じています。

――「端末化する生体」

*

◆しのびよる破局――生体の悲鳴が聞こえるか|辺見庸|大月書店|ISBN9784272330584200903

★★★★

《キャッチ・コピー》

NHK・ETV特集を再構成、大幅補充。金融恐慌、地球温暖化、新型インフルエンザ、そして人間の内面崩壊─。異質の破局が同時進行するいまだかつてない時代に、私たちはどう生きるべきか。「予兆」としての秋葉原事件から思索をはじめる。

memo

ジャン・ボードリヤール:フランスの社会学者

辺見庸■ いまここに在ることの恥

| | コメント (0)

山本一生◆恋と伯爵と大正デモクラシー――有馬頼寧日記1919

20090616yamamotokoito

原熈は教授に昇格し、頼寧は農商務省に入省する。

俊才が集まるといわれた農商務省に入ることができたのは原の尽力の賜物で、しかも辞めたのちの仕事まで世話してくれていて、頼寧にとっては文字通りの恩師であった。〔…〕

「なるほど。そういうことですか」と、原は応じる。「ご存知のように私は、学生のころから本人を知っていまして、よくわかっているつもりですが、有馬君は、そうですね、放蕩をしなければ、憂鬱病になってしまうようなところがあります」

「放蕩ですか?」

口元に微笑みを浮かべながら、倉吉は聞き返す。

「そうです、放蕩です。憂鬱病に陥るのを避けようと思えば、放蕩するしかないのです」

*

◆恋と伯爵と大正デモクラシー――有馬頼寧日記1919|山本一生|日本経済新聞出版社|ISBN9784532166366200709

★★★★

《キャッチ・コピー》

競馬「有馬記念」に名を残す有馬頼寧。社会運動に取り組む「華族の反逆児」は、許されぬ恋に悩み、爵位を捨てる覚悟までした。若き日の日記の行間から、大正という時代の実像を鮮やかに切り取ったノンフィクション。

memo

ネットによる古書販売がなかったころ、有馬頼義の本を求めて古本屋めぐりをし、昭和20年代以前の本を除きほぼ全著作を収集した。そのとき父・頼寧の「農人形」(1938)も頼義の序文があったため購入したことがある。こんな魅力的な人物だったとは……。

上坂高生■ 有馬賴義と丹羽文雄の周辺――「石の会」と「文学者」

| | コメント (0)

高橋五郎◆農民も土も水も悲惨な中国農業

20090610takahashinpomin

中国の国土は地形や水環境といった側面から考えると、決して農業には向いていないのだ。〔…〕

植物栽培ができる農地は吉林省、黒竜江省、山東省や江蘇省、安徽省など沿岸部の一部に集中し、ほかには四川省や陜西省など、山岳部にぽつりぽつりとある程度だ。〔…〕

アメリカの国土面積は約963万平方キロと、中国とほぼ同じだ。〔…〕国民1人当たりの耕地面積はアメリカの10分の1以下でしかない。

それでいて、13億の民(アメリカは3億人)の食を支えなければならないのだから、いかに中国の農業が実際の力以上に無理をしているかがわかろう。

それらの無理が、あらゆる問題を引き起こしており、その顕著な例が土と水の問題だ。

中国では土も水も、もはや「過労死」と表現しても大げさではない段階を迎えてしまっている。〔…〕。中国には日本やアメリカにはない、さらに深刻な事態が進行中なのだ。

*

◆農民も土も水も悲惨な中国農業|高橋五郎|朝日新聞出版|ISBN9784022732590200902月|新書

★★★★

《キャッチ・コピー》

中国経済の裏側は今、危機に瀕している。主因は「農業の崩壊」だ。中国農政研究の第一人者が7億農村住民の実態を赤裸々に伝え、中国に依存する日本の食糧問題を究明する。

memo

――「中国政府から睨まれませんか」「出入り禁止になるのではないでしょうか」というご心配を大勢の方々から頂きました。まあ、出る杭は打たれますが、出過ぎた杭は打ちにくいと言います。このくらいのことで門を閉じたら大国の名が泣くでしょう。(著者=日経ビジネスhttp://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090605/196832/

井村秀文■ 中国の環境問題 今なにが起きているのか

竹内実◆中国という世界――人・風土・近代

杉本信行■ 大地の咆哮――元上海総領事が見た中国

| | コメント (0)

高橋源一郎◆大人にはわからない日本文学史

20090609takahashiotonaniha

おそらく、もっとも若い小説家たちは、ある意味でこの百年で初めて、口語に向かい合っているのです。〔…〕

口語というものはわかりやすく、文章語というものはわかりにくいという常識とは逆に、実は、わたしたちが喋っている口語というものにはほとんど意味がなく、いわば大半が単なる音であり、ノイズにすぎません。

しかし、わたしたちが、ほんとうはどこで、どんな場所で生きているのかと、自分自身に訊ねた時、答えとなるべき場所は、そんな、ノイズに過ぎない口語が生きる場所ではないのか。

若い作家たちの作品には、彼らのそんな意識が、色濃く反映しているのです。

*

◆大人にはわからない日本文学史|高橋源一郎|岩波書店|ISBN9784000271011200902

★★★★

《キャッチ・コピー》

過去の堆積としての文学史を語り直すでもなく、文学史と無関係に新しい小説を読むのでもない。かつてない変化のただ中にある、日本の「文学」。この国の「文学史」について考え、「文学」の未知の未来を探る。

memo

大江健三郎、開高健から後、純文学は痩せ続けて、いまや絶滅寸前と思っていた。が、どうも違うらしい。だからといって読みたくはないが……。

高橋源一郎/柴田元幸◆柴田さんと高橋さんの「小説の読み方、書き方、訳し方」

高橋源一郎■官能小説家

| | コメント (0)

加藤仁◆筆に限りなし――城山三郎伝

20090605kathohudeni

城山三郎はその作品を『自ら計らわず』もしくは『風車、風の吹くまで』と題していた。しかし梅澤英樹は反対し、城山と対峙する。〔…〕

売らなければならない、という“俗”を引きうける梅澤は『落日燃ゆ』というタイトルをひねりだす。〔…〕

しばらく城山は黙ったままでいる。そして「ぼくには、その意味がわからない……」と言う〔…〕

翌日、城山から電話があった。その口調に前日の重苦しさはなかった。

「あのね、家内に相談したら、これまでの作品のなかでいちばんいいタイトルじゃないかと言われてしまった」〔…〕

妻の一言を持ちだしたのは城山の方便であって、執筆に没頭するあまりタイトルにまで、いまひとつ気がまわらなかった虚を編集者に突かれ、どことなく気まずく思っていたのではないのか。

*

◆筆に限りなし――城山三郎伝|加藤仁|講談社|ISBN9784062153416200903

★★★★

《キャッチ・コピー》

城山三郎は「経済」を恐れなかったが、「文学」を畏れていた─。12000冊の蔵書、無数のメモ、書簡、日記…段ボール300箱に収められた未発表資料をもとに描き尽くす、昭和と格闘した作家の生涯。

memo

城山作品で最も気に入ったのは通産省の派閥抗争を描いた『官僚たちの夏』(1975)。何度も読んだ。

加藤仁■ 社長の椅子が泣いている

城山三郎■ 嬉しうて、そして…

城山三郎◆そうか、もう君はいないのか

| | コメント (0)

小池晴子◆中国に生きた外国人――不思議ホテル北京友誼賓館

20090529koiketyugoku

しかし、私はすんなりと日本人コミュニティに入っていったわけではない。日本のわずらわしい地域社会から解放された友誼賓館は、ボヘミアンの気ままさをもって暮らせる夢のような場所であった。〔…〕

立ち入らず、押しつけず、絶妙の距離を保って、浮世の義理から解放されていた。ここは日本企業の社宅ではない。上下関係も利害もなかった。駐在員の社会には常に濃密な「日本」があるかもしれないが、専家の日常に「日本」は希薄であった。

それなら中国社会に根をおろしていたかといえばそうではない。中国の機関で働いていながら、中国人とのあいだには常にバリアが張りめぐらされていた。

孫君のように、こちらに入ってこようとすれば押し返す力が働き、中国社会に切りこもうとすると、盗聴の影を意識せざるをえないところがあった。日中間で微妙に浮遊する専家たちの間には、バリアに守られたやさしい連帯感が漂っていた。

*

◆中国に生きた外国人――不思議ホテル北京友誼賓館|小池晴子|径書房|ISBN9784770502025200902

★★★★

《キャッチ・コピー》

北京にあった外国人専用・長期滞在型ホテル。数奇な運命を生きた米国人・英国人・日本人などが、中国政府から「老専家」の称号を与えられ、手厚く保護されて暮らしていた……。日本共産党の秘密組織「北京機関」に関わった日本人、スパイとしてFBIに追われたアメリカ人女性原子物理学者など。

memo

専家」とはいわゆる“お雇い外国人”。友誼賓館=フレンドシップ・ホテルは、その居住区。1990年代、著者は旅游学院の日本語、観光学の教師として滞在。袖の下→友誼の印→「関系」というコミュニケーションや「中国ではあらゆる噂がまことしやかに流れる」話など。

| | コメント (0)

フレデリック・ルノワール/神田順子◆チベット真実の時Q&A

20090527lenoiltibet

中国は、国境の戦略的価値以上に、チベットの天然資源に関心がある。中国の水資源のおよそ30パーセントを供給する雪国チベットはアジアの水の宝庫と言える。

実際、アジアの大河の大部分がチベット高地を水源とし、その多くが貧しい農業国を潤す動脈となっている。

メコン川(インドシナ半島)、サルウイン川とイラワディ川(ミャンマー)、ガンジス川支流とブラマプトラ川(インド)、インダス川とサトレジ川(パキスタン)である。

さらに、中国中央部の商業上、経済上の主要交通路の一つである揚子江〔長江〕、ならびに中国北部を流れる黄河もチベット高原から発している。

大河の上流を制するものは下流の国々を制するという論は古代から実証済みである。これだけでも、中国が力ずくでもチベットに留まろうとする理由となる

*

◆チベット真実の時QA|フレデリック・ルノワール/神田順子|二玄社|ISBN9784544053043200903

★★★★

《キャッチ・コピー》

ダライ・ラマは生まれ変わるのか? 中国は封建的チベットを「解放」した?中国はなぜチベットを手放せないのか?28のQ&Aでチベット問題のすべてがわかる。

memo

「軍事的観点から言うと、高地を拠点とすれば中国軍はインド亜大陸のどこにでもアクセス可能となる。1950年代のラサ――カトマンズ間の戦略道路建設はその計画の一環であった。〔…〕このおかげで、1962年の中印国境紛争の際に、中国軍は勝利をおさめることができた」(本書)

マイケル・ダナム/山際素男:訳■ 中国はいかにチベットを侵略したか

堀江義人■ 天梯のくにチベットは今

クーロン黒沢■ 裏アジア紀行

島津法樹◆アジアン・ヒーローズ

| | コメント (0)

佐藤優:責任編集◆現代プレミア――ノンフィクションと教養

20090524sathonon

重松 ええ、一挙に100枚を掲載するような雑誌は、ほとんどなくなりましたね。いまは出版社から、「100枚の原稿があるのなら、あと50枚加筆して新書で」と言われてしまう。

『月刊現代』はA5判でしたが、あのサイズで100枚掲載されると、読むときには、ページを二十数回めくることになる。その身体性というか、ページをめくるたびに伝わってくるものは凄かった。雑誌には、サイズが持つ力もあると思います。

いとう ああいう雑誌がなくなると、雑誌特有の文化も失われてしまう。

重松 目次にいろいろならんでいるという……。

いとう そうそう。執筆者からすれば、「なんでコイツとならばなきやいけないんだ」みたいのがあるけれど(笑)、それがいい。

雑誌は都会の喧騒ですよ。ぶっ違いになっているから面白いんだ

新書なんて田舎の駅で一人たたずんでいるようなもの。誰とも出会わなけ。書き手も読み手も出会わない。

――いとうせいこう・武田徹・重松清「ネット時代のノンフィクション」

*

◆現代プレミア――ノンフィクションと教養|佐藤優:責任編集|講談社|ISBN9784063793529200905月|ムック

★★★★

《キャッチ・コピー》

ノンフィクションの逆襲が始まる。一流の「書き手」でありプロの「読み手」でもある10人が、知的好奇心を刺激し、心を揺さぶる名品を1000冊厳選。

| | コメント (1)

矢野絢也◆黒い手帖――創価学会「日本占領計画」の全記録

20090509yanokuroi

創価学会・公明党にとり、都議選は国政選挙に匹敵する特別な位置づけになっている。〔…〕

創価学会のお膝元である東京で、池田先生と組織を守るためには、警視庁など行政への影響力を常に保持しておく必要がある。

ことに宗教法人資格に関する権限が地方自治体に帰属していた頃は、東京はどこよりも、重要な戦略的な地域だった。

今でも、ある意味、国政より行政の現場と直結している都政のほうが重要な位置づけになっており、都議は全国の地方議員の指導者的立場にある。〔…〕

また、公明党では国会議員に匹敵するぐらい、いやそれ以上に、都議の地位が高いといっても過言ではない。それほど、創価学会にとって、都政は重要な位置を占めているのだ。

そのため、都議選があると、「都議選支援の全国作戦」を展開する。全国各地から学会員が手弁当で上京し、都内在住の親戚や知り合いに、公明党候補への投票を依頼して回るのだ。

*

◆黒い手帖――創価学会「日本占領計画」の全記録|矢野絢也|講談社|ISBN9784062152723200902

★★★★

《キャッチ・コピー》

公明党書記長としての政治活動、創価学会の重要事件の表裏等を詳細に記した100冊近い手帖を、創価学会に所属する元公明党議員によって強奪された著者。自身の経験を語り、学会と公明党の実態と事件、思想にアプローチする。

memo

元公明党委員長による“学会事件史”のおさらい。

| | コメント (0)

塚本邦雄◆百句燦燦――現代俳諧頌

20090516tukamotohyaku

 縊死もよし花束で打つ友の肩 小宮山遠(こみやまとほし)   

俳句とは畢竟理不尽得手勝手極まる形式である。黙って歌へ、眉を顰めて哄笑せよ、泣くなら死の後にと強ひかねない。困じ果てて絶句したのが揚句ではなく発句となる。

元来定型短詩に意味を求めるのは無いものねだりに類する。だがノンセンスと貶められるのが口惜しくて、反間苦肉のロマネスクを企むと、もともと無理の横車、目もあてられぬ私小説の梗概が残るくらゐのものであらう。

花鳥諷詠眞骨頂漢などと呼ばれたら羞恥の余り舌を噛まうといふ一片耿耿の志の強者が、俳諧と詩とロマンの三位一体をもくろみ、三すくみの立往生寸前にあやふく成立した好例の一つに掲出の句がある。

初五は一人称を省いた独白、中、座十二音で劇(ドラマ)が始まる。読者は学問教養嗜好経験に即して自由に独白と対話を加へ、劇には終幕のカタストロフを書き加へればよからう。

*

◆百句燦燦――現代俳諧頌|塚本邦雄|講談社|ISBN9784062900157200806月|文庫

★★★★

《キャッチ・コピー》

ありうべき最高の美学は虚無――生涯徹底した反リアリズム、芸術至上の立場を貫いた塚本邦雄。69人の秀句100を選び、斬新かつ創造的評釈を展開。稀代のアンソロジストによって招喚された現代俳諧頌。

memo

100句すべて難解だが、著者の読解はもっと難解。頭の体操に好適。

塚本邦雄■ 世紀末花伝書

| | コメント (0)

蒼樹うめ◆ひだまりスケッチ

20090510aokihidamari_2 

20090510aokihidamari2

……文系に進むべきだってことはわかってるんだ。ゴホンッ。文章書きとしてやっていこうと思ってる訳だからね。

でもやまぶきで2年間美術をやって、そのおもしろさもわかってきて…。…文章のために絵を描くんだったら本末転倒なんだけど…。

どっちも半端になるから、良くないとわかっているんだけど、どっちも選びたくて……。

あ、ゴメンね。長々喋っちゃって…。

大丈夫です!! 要は「二兎追うものは一兎も得ず」って話ですよね!!

たきゅーーん

*

◆ひだまりスケッチ|蒼樹うめ|芳文社|1ISBN9784832275492200510月(2ISBN9784832276079200612月(3ISBN9784832276819200802月(4ISBN9784832277625

200812

★★★★

《キャッチ・コピー》

やまぶき高校近くのひだまり荘でひとり暮らしをしながら高校の美術科に通う4人の女の子達の青春を、やさしく温かく描き出す大人気4コマ。

memo

金曜定期便と称して、孫に毎週ペーパークラフトやほのぼの系コミックなど送っているが、これがお気に入りらしくって。

| | コメント (0)

立川談春◆赤めだか

20090508tatekawaakamedaka

「御来場で感謝でございます。二ツ目にした基準は落語の数、内容、つまり技術です。それを談志(アタクシ)が認めたということです。〔…〕

落語家は伝統を語っていかなければいけません。当人の段階に応じた伝統を、落語を語ってゆく。そしてウケる根多を作ってゆく、それをこれからやってゆくのです。

そして、最後には己の人生と己の語る作品がどこでフィットするか、この問題にぶつかってくると思います。それまで、この3年、45年、がむしゃらにどんな世界でもよい、かきまわしてこいと教えたつもりです。

問題は古典落語が一般的にあまりポピュラーではないということです。落語さえ上手ければ何とかなるという時代ではない。だからこそやり甲斐があるのです。

落語に己の人生をフィットさせて、俺がつくった夢金だ、大工調べだと云えるようになってほしい。落語はもはや伝統ではありません。

個人です。演者そのものを観に来る時代になっているのです。〔…〕

云っておきます。お前らは上手いです。よく頑張った。他の馬鹿共に負けるな。それから……あまり落語家と付き合うな。よろしく御贔屓、お引き立てをお願い致します」

*

◆赤めだか|立川談春|扶桑社|ISBN9784594056155200804

★★★★

《キャッチ・コピー》

講談社エッセイ賞。笑って泣いて胸に沁みる、「家族以上」の師弟関係。17歳で天才・立川談志に入門した談春が落語家前座生活を綴った、破天荒な名随筆。

memo

談春、真打になるまでの“自伝”。最終章の師匠・談志とその師匠の小さんとの和解話の機微は、圧巻。タイトルの赤めだかは、本文に「金魚とは名ばかりで、いくらエサをやってもちっとも育たなかった。僕達は、あれは金魚じゃない、赤めだかだ、と云って馬鹿にしていたが、大きくならないところも談志好みらしく可愛がっていた」とある。

立川談志/聞き手・吉川潮■ 人生、成り行き――談志一代記

立川談志■ 談志が死んだ――立川流はだれが継ぐ

| | コメント (0)

田中未知◆寺山修司と生きて

20090501tanakaterayama

もちろん、「虚と実」が混じりあったまま語り継がれてきたことには、寺山自身の責任が大きかったと思う。彼には「嘘を楽しむ心」が十分に備わっていたからだ。

寺山はよく

「ホントよりもウソのほうが人間的真実なのだ」

と口にした。なぜならホントは人間なしでも存在するが、ウソは人間なしでは存在しえないからだ。

私はときどきそういう寺山の生き方を批判した。

「私は泣きたいときに泣いて、怒りたいときに怒れるような、そんなふうに自然に生きたい」

だが寺山は、そんなとき必ず反論した。

「人間だからこそ、泣きたいときに笑い顔をつくって、怒りたいときにじっと我慢して歯を食いしばって押し隠すこともできるんじゃない」

*

◆寺山修司と生きて|田中未知|新書館|ISBN9784403210945200705

★★★★

《キャッチ・コピー》

寺山修司のパートナーとしてその死までの16年余をともに生き、寺山修司の文学・演劇・映画を全力で支えた田中未知が24年の沈黙を破って語りはじめる寺山修司の核心。

memo

寺山の母・はつ、主治医・庭瀬康二への烈しい怒り”の書。

杉山正樹■ 寺山修司・遊戯の人

寺山修司■ 寺山修司の俳句入門

| | コメント (0)

赤瀬川原平◆全面自供!

20090425akasegawazenmen

そのころ自分が普通書いていたのはエッセイなんだけど、それとほとんど同じものを、小説という額縁、舞台というか、文芸誌の中にストンと入れたら、読者にしろ審査員にしろ、見る眼差しが違ってくるというのが、すごく面白くてね。〔…〕

それまでにも小説的な遊びは短いエッセイの中でいろいろやっていたんだよ。ちょっとフィクションを混ぜて書くことの気持ちよさって、あるんだよ。

それに、小説という額縁の効果が、内容的にも及ぶというのかな。普通の記憶が、何となく小説になっちゃう気持ちよさというのがあるんだね。文章が、ある程度、何ていうのかな、責任を解かれるんですよ。

フィクションだから、地面から浮いちゃっていいんだよね。書く方が手で支えて浮かせているだけでなくて、読む方も頭で支えて浮かせて読んでいる。

エッセイや評論は、現実の生活とピタッとひっついている。進むにしても着地しながら進んでいる。でも、小説はちょっと地面から浮いてるのね。浮いて進む。

*

◆全面自供!|赤瀬川原平 |晶文社|ISBN9784794964311 200107

★★★★

《キャッチ・コピー》

趣味と仕事が相互に位置を交換しながら持続する赤瀬川の人生を、一面に広げて総点検! 旧知の松田哲夫を聞き手に、若いころのモヤモヤ時代からはじまって、千円札裁判や路上観察学会の結成のことなどを全面自供。

memo

松田哲夫のインタビューによる赤瀬川原平の“自伝”。

路上観察学会■奥の細道 俳句でてくてく

| | コメント (0)

大下英治◆トップ屋魂――週刊誌スクープはこうして生まれる!

20090420oshitatop

「『週刊文春』は、どうしても『週刊新潮』のようには思いきって切れない。何の伝統なのかな。相手の言い分というのを、つい聞いてしまう。

あれは、大宅壮一さんが言ったのか、『盗人にも三分の利で、やられる側にも、必ずそいつの言い分があるんだから、それだけは聞けよ』と。わたしは、書くとき、自分の頭の中に、必ずその言葉がありましたね」

花田さんが言った。

「おれは、『週刊新潮』のニヒリズム、『週刊文春』のヒューマニズムと思っている」

「ワッハハハ。それはいい。わたしはそのニヒリズムの新潮風の止めの刺し方というのを、『週刊文春』で見事にやってみたい、というのがイメージの中にあったんだけど、ついにできなかった。

ひとつは、『週刊新潮』の記事の書き方は、論理構成によって最期の止めを刺すんだけれども、『週刊文春』の最期は、どちらかというと、論理構成じゃなくて、最期の二、三行で茶化すというスタイルですからね

「茶化すというか、救っている面もある」

*

◆トップ屋魂――週刊誌スクープはこうして生まれる!|大下英治|ベストセラーズ|ISBN9784584131299200902

★★★★

《キャッチ・コピー》

ノンフィクションとは何か。首輪のない猟犬が追い込む「昭和の怪物」たち。政財界から芸能界、さらに闇社会にうごめく"昭和の怪物たち"の裏の秘密に鋭く切り込むトップ屋の執念の取材。350冊以上の著作を持つ大下英治が初めてその取材の舞台裏を明かす。

memo

大下英治の自伝的昭和の事件回顧録。

大下英治■ 吉本興業、カネの成る木の作り方

大下英治■ 小泉は信長か―優しさとは、無能なり

| | コメント (0)

宮城谷昌光◆他者が他者であること

20090416miyagitanitasya

自分の合理を捨てないと、新しい物を発見することができない。このことは過去にも現在にもあてはまり、歴史や文学の世界の外でもあてはまる。

人は自身を例にとってみればよい。自身は他人に説明しやすい存在であるかどうか。人は不合理であり、矛盾そのものである。その自身が、十年前の白身とくらべてみて、新しくなったのか古くなったのか。

問うて答えをえられないところから文学は発している。

じつは、自分にとって、歴史を小説化するという作業もおなじ起点をもつ。ただし、ことわっておきたいのは、小説化することと物語化することとは、ちがう。人の存在にたいする問いかけがなされて、小説といえる。

そうでなければ物語である。この小説というジャンルをもってはじめて司馬遷の比類ない偉大さがわかったといえる。〔…〕

個人を彫琢する度がちがう。人への問いかけの深さがちがう。さらにいえば、おのれの問いかけがこだまとなってかえってくるまで、司馬遷は待っている。そういう時の厚みを『史記』はそなえている。

――「他者が他者であること」

*

◆他者が他者であること|宮城谷昌光 |文藝春秋 |ISBN9784163710808 200902

★★★

《キャッチ・コピー》

20代の頃には、歴史小説を悔蔑していた―。毛嫌いしていた歴史小説をなぜ書き始めるに到ったか。著者と歴史との邂逅を語ったエッセイから、古代中国についてなど…。創作に対する著者の姿勢が立ち現れた、哲学的思索とみずみずしさに溢れる珠玉のエッセイ集。

宮城谷昌光■香乱記(上)

宮城谷昌光■香乱記(中)

宮城谷昌光■香乱記(下)

宮城谷昌光■三国志第1巻

宮城谷昌光■三国志第2

| | コメント (0)

三浦俊幸/川口澄子◆七十二候美味禮讚

20090415miurakawaguti

は、古くから日本人に愛されてきた植物です。〔…〕

まず、平安京の内裏にある「右近の橘」はあまりにも有名。『万葉集』では萩や梅に並ぶほど数多く歌に詠まれ、橘に由来する苗字や家紋は多数あります。ほかの柑橘類と比べて特別なものであることは間違いありません。

梅雨のころ、五片の白い花を咲かせます。風の凪いだ初夏の午後、橘の樹の前に立っていると花の匂いにあてられます。

その匂いは気高く澄みきっていながらも、どこかしら重く、心にのしかかってくる。

すがすがしいのになぜか切なさを覚えるのです。いにしえの歌人らが、橘に懐旧の情を見いだした気持ちがわかるような気がします。

それならば、橘を味わいつつ万葉の時代に思いをはせたいところですが、残念なことに酸が強すぎて生食には向きません。

――「橘と柚子」

*

◆七十二候美味禮讚|三浦俊幸/川口澄子|小学館|ISBN9784093877756200812

★★★★

《キャッチ・コピー》

本書には、食べること、美味しいもの、美味しいものを味わう雰囲気への思慕が詰まっています。食いしん坊の料理人と画工の歳時記。

| | コメント (0)

佐野洋◆ミステリ-との半世紀

20090413sanomistery

当時の『宝石』では、一々の作品について、冒頭に乱歩さんの感想がつけられていた。〔…〕

「天にも昇る気持」という表現があるが、これら乱歩さんの感想を読んだときの私は、まさにそんな気持になっていた。

何しろ大乱歩が、これだけ褒めてくれたのである。推理作家(あるいはそれを目指す者)にとって、こんな嬉しいことはないとも言えるだろう。

ところが……。

当時、『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン(日本版)』の編集長をしていた都筑道夫さんが、後日打ち明けてくれたところによると、

「『宝石』にRの署名で感想を発表しているのは、作家の江戸川乱歩ではなく、編集者の江戸川乱歩だ」という皮肉めいた冗談が、評論家たちの間でささやかれていたという。〔…〕

乱歩さんが「編集責任者」である以上、その雑誌に採用した小説に、幸い点をつけるわけにはいかない理屈である。

*

◆ミステリ-との半世紀|佐野洋 |小学館 |ISBN9784093878265 200902

★★★★

《キャッチ・コピー》

著者は1958年に「銅婚式」を発表し、作家としての人生を歩む。それからの50年、日本ミステリー界の黎明期を著者の日記から読み起こす。著者しか知らない事実もあり、貴重なミステリーの時代史となっている。

memo

1950年代、佐野洋、日野啓三、菊村到、大岡信、三好徹……、みんな読売新聞に在籍していた。

佐野洋■推理日記PART9

| | コメント (0)

一ノ宮美成/グループ・K21◆橋下「大阪改革」の正体

20090402ichinomiyahashimoto

さて、先の『サンデー毎日』の記事では、橋下知事の政治手法そのものについての「幼さ」を、神戸女学院大学の内田樹教授がこう指摘している。

「情緒的な発達が11歳か12歳くらいで終わっている幼い人だと思います。複雑な問題に対して非常にシンプルな解決方法があると思い込んでいるのです」

そうして、府政の問題はお金の分配がすべてであるというストーリーを打ち出した橋下氏に対し、わかりやすさを求める有権者やメディアも同調してしまったのが最初のつまずきだったと、同教授はこう説明している。

「橋下氏は次に、政治は“誰をいじめるか”を決めることだと言って、みんながそれにうなずいた。いじめの標的を決める権限を彼は独占し、府教委、逆らった市町村教委というふうに標的をシフトしているのです」〔…〕

タレントの世界は浮き沈みが激しい。なにかにすがりつかねば生きていくことが難しい世界だ。最近、目立つのは宗教団体の信者になることだが、橋下知事は境遇こそ違えど、とにかく注目されなければ存在価値がなくなる、という思いに取り憑かれているように見える。

*

*

◆橋下「大阪改革」の正体|一ノ宮美成/グループ・K21 |講談社 |ISBN9784062149532 200812

★★★★

《キャッチ・コピー》

タレント独裁知事が狙っているのは何だ?「弱者切り捨て」の先に何があるのか!無駄な「大規模開発」を推進するのはなぜだ!「同和行政」となぜ決別できないのか!「詭弁」と「恫喝」の強権政治が目指す悪夢のシナリオ。

memo

暑苦し大阪府知事出ずつぱり。大阪のテレビは情けない。

| | コメント (1)

木村俊介◆変人――埴谷雄高の肖像

20090401kimurahenjin

埴谷さんの作品も文芸誌も今はあまり読まれないでしょうね。

どの出版社でも文芸誌は赤字です。文学賞を発表するのに必要だからかたちの上で大事にされていますが、読まれないということは「文芸なんてなくてもいい」と社会が表明しているわけです。

そういうなかで編集者は大きな努力を強いられますが、努力しても求めている作品が生まれてくるわけではない。作家はむしろ危機感を感じていないように思えます。〔…〕

『死霊』よりも、作品以外の埴谷さんの言葉、いろいろな日々が好きですね。生き方から作品をどうこういえませんが、それでも埴谷さんの場合は作品以外の生き方に惹かれます。〔…〕

考えることが一つの行為になる人は日本にあまりいないですよね。埴谷さんは人生のほとんどを執筆以外に費やしています。

普通の作家は少し考えたことを割り増しして書きますが、彼は考えたもののほとんどを捨ててしまう。

生涯そういう賛沢なことをなさった人ですね。これでいいというところまで考えなければ書く意思がないという稀な人でした。

――「贅沢」宮田毬栄さん

*

*

◆変人――埴谷雄高の肖像|木村俊介 |文藝春秋|ISBN9784167764012 200903月発売 文庫

★★★★

《キャッチ・コピー》

ネット上の仮想大学に「埴谷雄高サイバーミュージアム」という膨大なページをつくり、巨人の実像に迫った。巨編『死霊』の作者をよく知る27人に徹底的にインタビューし、生前の埴谷雄高を生き生きと蘇らせた。

memo

じつは埴谷雄高を読んだことが無い。しかしインタビューに応じた27人の語る埴谷像だけでなく、27人それぞれの人生観、経歴も興味津々。

宮田毬栄■ 追憶の作家たち

| | コメント (0)

黄文雄/呉善花/石平◆帰化日本人――だから解る日本人の美点・弱点

20090329ohkika

 韓国では書かれた言葉よりも話された言葉を信じる傾向が強いんです。「言葉さえうまければ千両の借金も返す」ということわざがあるようにね。〔…〕

テレビでは、それこそ話のプロたちが巧みな話術でアピールするものですから、テレビの影響は日本などとは比較にならないほど大きいんです。「テレビでそういっていたよ」といわれれば、多くの人が疑いの余地もないくらい信じてしまうんです。〔…〕

 石さんの話では、中国では100パーセント政治権力が、つまり共産党が握っているということでしたが、台湾の場合はマスメディアの背後にある資本なんですね。〔…〕

政治権力じゃなくて金権力がマスコミを握っているのが台湾です。〔…〕それで、今の台湾のマスメディアの80パーセントが中国資本なんですよ。

そのため、マスメディアでの言論は中国寄りでなければやれなくなってしまう。台湾の言論界が中国を美化するのはそのためです。

*

*

◆帰化日本人――だから解る日本人の美点・弱点|黄文雄/呉善花/石平|李白社/フォレスト出版|ISBN9784894519039 200811

★★★★

日本に定住して長らく生活してきた、台湾出身、中国出身、韓国出身の三者による、日中韓台の文化的な伝統と現代をめぐる鼎談。マスコミ、教育、道徳、食事、風習、夢をテーマに、忌憚なく所見を交える。

memo

甘口。自虐的日本人に日本の魅力を語る。

| | コメント (0)

高橋一清◆編集者魂

20090327takahashihensyusya

思えば、私の仕事は身内に多くの犠牲を強いて成り立っている。〔…〕

休日に家族を連れて出掛けようとするところに、「原稿が出来た」との電話が入ると家族の約束を破って、先生の許に走った。「まただ」との家族の失望した声が今も耳から離れない。

書きあぐねている作家の繰り返しかかってくる電話、原稿を返却した人からの恨みごとの電話。あるいは出版した本の新聞広告の扱いについての苦情の電話。〔…〕

編集者は全身で作家に向かい合う。そういう全幅の信頼の中で、作家は初めて殻を破り、才能を開花させる。

作家、特に新人作家にとっては、自分ひとりを相手にしている人と編集者を思うこと、またそう思って励む時期が必要なのである。私は仕事に「滅私奉公」の心構えで臨んでいた。そのため犠牲になるのが家族である。

*

*

◆編集者魂|高橋一清 |青志社 |ISBN9784903853444 200812

★★★★

《キャッチ・コピー》

芥川賞・直木賞作家を最も多く育ていくつもの名作、話題作を世に送った元文藝春秋の編集者が初めて明かす作家の素顔。司馬遼太郎/松本清張/和田芳恵/立原正秋/阪田寛夫/中上健次/有吉佐和子/中里恒子/芝木好子/江藤淳/辻邦生/大岡昇平/遠藤周作/中野孝次

memo

「私はかねがね30歳までに、文藝春秋で雑誌記者をしているなら、世間が驚くようなスクープ記事を書く、文藝雑誌編集者なら、芥川賞・直木賞の受賞作品を担当する、出版部での仕事だったら、ベストセラーの作品を世に送り出す。これが果たせなかったら、この職業は不向きだから転職を考えると心に言い聞かせていた」(本文)

宮田毬栄■ 追憶の作家たち

| | コメント (0)

萩原健一◆ショーケン

20090321hagiharasyoken

スッテンテンだったころに話を戻そう。あのころ、払わなければならなかったのは補償金だけじゃない。毎月、小泉一十三さんに娘の養育費を送る義務もあった。

しかし、働いて払おうにも、こんなおれを使ってくれるテレビ局や映画会社なんてあるわけがない。〔…〕

頭を抱えていたら、下馬二五七さんから、

「ハギさん、アルバイトする? ぬいぐるみ着てもらうけど……」

そんな声がかかった。

二五七さんとは、日本テレビの『祭ばやしが聞こえる』で知り合ったのかな。寺山修司さんの劇団「天井桟敷」の俳優で、困ってるおれに遊園地の子供相手のイベントの話を持ってきてくれたのさ。

やったよ、ぬいぐるみを着て。子供には、中にいるのがショーケンだなんてわかんなかっただろう。スッテンテンなんだから、何だってやるさ。

三カ月間、ぬいぐるみのアルバイトは一日も休まなかった。天地真理ショーのバックで汗だくになって踊ったこともあるおかげで養育費の支払いは、一回も滞らせなかった。

*

*

◆ショーケン|萩原健一 |講談社 |ISBN9784062145220 200803

★★★★

《キャッチ・コピー》

あのショーケンが57年の人生、すべてをさらけ出した!愛と別れ、友情と確執、喧騒と孤独。いつでもなんにでも本気すぎた日々。過剰な本能が周囲をひきつけ、自らをも壊していく。いしだあゆみ・倍賞美津子・勝新太郎・美空ひばり・松田優作……。

| | コメント (0)

島内景二◆源氏物語ものがたり

20090312shimautigennji

日常生活で忘却された「根源的な人生」のことを、宣長は「もののあはれ」と命名した。

源氏物語には、たくさんの登場人物が入れ替わり立ち替わり、現れる。彼らは、光源氏と関わらなければ一生体験せずに済んだだろう「大きな苦しみ」と、光源氏から分けてもらった「大きな喜び」を感じている。だから彼らは、人間として生まれた甲斐があった。

その人たちの「喜び」や「悲しみ」をすべて吸収して、光源氏は生きる。〔…〕

「もののあはれ」は、美学や美意識などではない。平和によって麻痺しつつある「人間の心の緊張感」、あるいは「危機意識」を取り戻すための唯一の武器だったのだ。

宣長は、どこまで自分の心を高めて「人間本来の姿」を取り戻せるか、験(ため)したかったのだろう。感情の起伏の激しい光源氏は、まさに「人間」のモデルだった。

――第9章 本居宣長

*

*

◆源氏物語ものがたり|島内景二 |新潮社|ISBN9784106102844 200810月 |新書

★★★★

《キャッチ・コピー》

なぜ源氏物語は千年もの長きにわたって、読者を惹きつけてきたのか?本文を確定した藤原定家、モデルを突き止めた四辻善成、戦乱の時代に平和を願った宗祇、大衆化に成功した北村季吟、「もののあはれ」を発見した本居宣長…。源氏物語に取り憑かれて、その謎解きに挑んだ9人の男たちの「ものがたり」。

memo

源氏物語の読まれ方1000年史。

■源氏物語&関連本

| | コメント (0)

水村美苗◆日本語が亡びるとき――英語の世紀の中で

20090303mizumuranihongo

〈学問の言葉〉が英語という〈普遍語〉に一極化されつつある事実は、すでに多くの人が指摘していることである。〔…〕

〈学問の言葉〉が〈普遍語〉になるとは、優れた学者であればあるほど、自分の〈国語〉で〈テキスト〉たりうるものを書こうとはしなくなるのを意味するが、そのような動きは、〈学問〉の世界にとどまりうるものではないのである。〔…〕

そして、いうまでもなく、〈テキスト〉の最たるものは文学である。〔…〕

くり返すが、広い意味での文学が終わることはありえない。

だが、英語が〈普遍語〉になったことによって、英語以外の〈国語〉は「文学の終わり」を迎える可能性がほんとうにでてきたのである。

すなわち、〈叡智を求める人〉が〈国語〉で書かれた〈テキスト〉を真剣に読まなくなる可能性がでてきたのである。それは、〈国語〉そのものが、まさに〈現地語〉に成り果てる可能性がでてきたということにはかならない。

〈国民文学〉が〈現地語〉文学に成り果てる可能性がでてきたということにはかならない。

*

*

◆日本語が亡びるとき――英語の世紀の中で|水村美苗 |筑摩書房 |ISBN9784480814968 200811

★★★★

《キャッチ・コピー》

「西洋の衝撃」を全身に浴び、豊かな近代文学を生み出した日本語が、いま「英語の世紀」の中で「亡びる」とはどういうことか?日本語と英語をめぐる認識を深く揺り動かし、はるかな時空の眺望のもとに鍛えなおそうとする書き下ろし問題作が出現した。

山口仲美■ 日本語の歴史

浅利慶太■ 時の光の中で――劇団四季主宰者の戦後史

萩野貞樹■ 旧かなづかひで書く日本語

| | コメント (0)

アルベルト・マングェル/野中邦子◆図書館 愛書家の楽園

20090221tosyokan

現代文明が読書を重んじる社会だと見なされたとしても無理はない。ところが、その逆なのだ。

現代の西欧社会は、本を当然のものとして受け入れるが、本を読むという行為――かつては役に立つ大切なことだと考えられ、またときには危険で、破壊のもとになるとさえいわれた――については、たんなる気晴らしだと思っている。

時間を食う気晴らしであり、効率が悪く、公益にはならないものなのだ。

過去からの訪問者もやがて気づくだろうが、現代社会において、読書は補助的な行為にすぎず、

私たちの記憶や経験が集積された偉大な宝庫だったはずの図書館は、いまや生きた存在というよりも、むしろ不便な倉庫だと思われている。

――「孤島の図書館」

*

*

◆図書館 愛書家の楽園|アルベルト・マングェル/野中邦子 |白水社 |ISBN9784560026373 200810

★★★★

《キャッチ・コピー》

古代アレクサンドリア図書館、ネモ船長の図書室、ヒトラーの蔵書、ボルヘスの自宅の書棚など、古今東西の実在あるいは架空の図書館を通して、書物と人の物語を縦横無尽に語る。

| | コメント (0)

内田樹◆街場の教育論

20090217uchidakyouiku_3

自分の好きな部屋を、自分の好きなインテリアで飾り、自分の好きな音楽をかけ、自分の好きな料理を、好きな食器で食べる。好きな時間に起き、好きな時間に寝て、好きなときに、好きな場所に、好きな友だちと(あるいは恋人と)旅行する。

自分らしく生きるということは、要するに誰の同意も必要とせず商品選択を自己決定できることである、と。

私が言っているんじゃありませんよ。中教審から『BRUTUS』まで、フェミニストから電通まで、全員がそう唱和したのです。

うんざりする話ですが、ともかく、その全国民を巻き込んだ国策的な「自分らしく生きる」「個性的に生きる」キャンペーンの過程で、消費行動に際して同意が必要な他者との共生は「よくないこと」であるということについての国民的合意がいつのまにか成立しました。

非婚化・晩婚化・少子化というのは、この合意に基づく論理的な帰結です。

――第8講「いじめ」の構造

*

*

◆街場の教育論|内田樹 |ミシマ社|ISBN9784903908106 200811

★★★★+

《キャッチ・コピー》

「他者とコラボレーションする能力」の涵養こそ喫緊の課題。学校、教師、親、仕事、宗教…あらゆる教育のとらえ方がまるで変わる、驚愕・感動の11講義。

内田樹■ 街場の現代思想

内田樹■ 街場の中国論

| | コメント (0)

島津法樹◆秘境アジア骨董仕入れ旅――お宝ハンター命がけの「黄金郷」冒険記

20090213shimaduasia2

「発掘の話だがね、一日目は連れて行った客に掘らせるのさ。期待をもたせる古い破片が必ず出てくるんだ。時間も計算してあって、その日はもう遅いからとその場でテントを張って野宿をするらしい」〔…〕

「朝日の昇る頃になると客は興奮して『掘ろう!掘ろう!』と急がせるらしいよ。客も土だらけになって掘り屋達と一緒に作業をするんだ。〔…〕

「ノリキ、それからがお笑いよ。サラポーンが『あ、ここにある』とか言ってザクザク掘り出すんだよ。スワンカロークや中国の青磁、ベトナムの焼物まであって客の要望に何でもこたえるんだ。客も自分で掘っているものだから出てくるとたまらん顔して喜ぶらしいよ」〔…〕

「すごいねェ。でも客も馬鹿じゃないだろうに。何でこんなに時代も国もバラバラな物が同じ所から出るのかって聞くだろ?

そんな時は昔の王様の宝物庫とかいうらしい

*

*

◆秘境アジア骨董仕入れ旅――お宝ハンター命がけの「黄金郷」冒険記|島津法樹 |講談社 |ISBN9784062812245 200808月|文庫

★★★★

《キャッチ・コピー》

ガンダーラ仏を巡る息詰まる駆け引き!マハラジャのお城!カトマンズの迷路のような裏道をくぐり抜け辿り着いた国宝級の歓喜天像。アジアを舞台に繰り広げられる骨董の世界の手に汗握る冒険談。

memo

「亜細亜、骨董仕入れ旅」(ISBN9784062124812 200409月)を改題。

島津法樹◆魔境アジアお宝探索記――骨董ハンター命がけの買い付け旅

| | コメント (0)

井上章一◆日本に古代はあったのか

20090206inouenihon_3

貴族の時代から武士の時代へと、世の中がうつっていく。それを新しい中世のはじまりだとする教育が、私たちにはほどこされていた。

そんな中世も、15世紀にはみだれだし、やがて乱世の戦国時代となる。この混乱が、最終的にまとめあげられたのは、江戸に統一政権ができてからであった。だから、江戸時代以後を、新しい近世と位置づける。〔…〕

しかし、どうだろう。この時代区分、ちょっとへんだと思わないか。

中世と近世の新しい時代は、鎌倉時代と江戸時代で、はじまるという。つまり、新時代は、いつも関東地方で開始されることになる。〔…〕

ながらく教科書の定番とされてきた時代区分は、関東びいきの思惑でできている。関東を進歩的だと考え、近畿をより停滞的なところとして位置づける。

そんな関東優位史観が暗暗裡にはたらいて、かたちづくられている。〔…〕

とにかく、関東へ中心のうつることが、世の中を新しくする。近畿に中心のあるあいだは、古いよどみとみだれがなくならない。そんな価値観にもとづいて、中世と近世は、設定されてきたのである。

*

*

◆日本に古代はあったのか|井上章一 |角川学芸出版|ISBN9784047034266 200807

★★★★-

《キャッチ・コピー》

私たちの歴史観は、時代区分の位置づけにより大きく左右される。日本では明治以後、武家の台頭が中世の起点となるが、中国の中世は日本より数世紀先んじている。一方、西洋には古代がない国もある。ユーラシアの東端にある列島は世界史のなかにどう位置づけられるのか。日本史に新たな光をあてる。

井上章一■ 性の用語集

井上章一■ 日本の女が好きである。

| | コメント (0)

杉本苑子◆散華(下)――紫式部の生涯

20090202sugimotosange02

――どれくらい時間が経過したのか、それからの小市にはわからなかった。ほんのわずかな間だったようにも、無限の長さを男の翻弄にまかせていたようにも思える。〔…〕

二刻もの濃密な時を、道長と共有しているあいだ、自分がどのようなうつつなさで意識のほかな、どのような振舞いを見せたかは、しどけない衣服や髪の乱れが証している。

小市の内奥にふたたびじりじりと、怒りの燠がくすぶりはじめ、それは一人になった今もまだ身体の深部に鳴りどよもす感覚との、ぎごちない鬩(せめ)ぎの中で、たちまち激しい炎に変じていった。

意志とは別に、道長の旺盛な要求に応えつづけた身体が小市にはおぞましい。恥の塊のようにさえ思えてくる。

この正月で道長は41、小市は37歳になった。男の40は、そこまでつつがなく生きたことを祝賀されるはどの年齢だし、女の37に至っては、もはや老女の域に入る。

(それでも結びつけば、忘我の燃えが訪れる。浅ましい……)

事が終ったいまになって、涙があふれ出てくるのも無念だった。(ものう)い身体をやっと起こして小市は身づくろいし、髪のほつれを櫛けずった。

◆散華(下)――紫式部の生涯|杉本苑子 |中央公論新社 |ISBN9784122020757 199402月|文庫

★★★★

《キャッチ・コピー》

3年にも満たぬ不幸な結婚生活。華やかな宮仕えでも癒されぬ心の渇き。骨肉相食む凄絶な権力抗争の現実と人々の浮き沈みとを見すえつつ、『源氏物語』の完成に胸底の焔を燃やし続けた一人の女性の生の軌跡をたどる歴史大作。

杉本苑子◆散華(上)――紫式部の生涯

| | コメント (0)

杉本苑子◆散華(上)――紫式部の生涯

20090201sugimotosange01

その刺激もまた、男によっては快楽の一部なのかもしれないが、恨みや嫉みに苦しむのは女たちである。

「不公平ですよ叔母さま」

小市の不満顔へ、

「苦しむのも恋の醍醐味でしょうけどね」

薄い、淋しげな笑顔で周防は言った。

「難のない人間はいず、不条理や不公平を伴わない愛もない。それが現実ならば、せめて物語の中ででも、理想の男性像を求めるしかないわね。小市さん、書いてみたら?」

「わたしが!?

「あなた自身、『これこそ完璧』と思える男の人を創り出して、その主人公をめぐるさまざまな恋の在り方を綴ってゆく……。物語を読むのが小さい時から大好きだった小市さんなら、書くことだってできるのではないかしらね」

そそられて、ふと小市の胸はざわめいた。やれそうな気がした。やってみたい意欲が動いた半面、とても自分などには不可能にも思えた。

*

*

◆散華(上)――紫式部の生涯|杉本苑子 |中央公論新社|ISBN9784122020603 199401月|文庫

★★★★

《キャッチ・コピー》

娘たちを政治の道具に、権勢をほしいままにする藤原氏。一門ながら無欲恬淡な漢学者の娘として生まれ、世の不条理を懐疑しつつ、歌や物語の世界に真実の愛を求める紫式部の、多感な青春を濃やかな筆致で描く歴史大作。

memo

小市=紫式部、御許丸=和泉式部、“増上慢の君”=清少納言

田辺聖子■ むかし・あけぼの(上)――小説枕草子

田辺聖子■ むかし・あけぼの(下)――小説枕草子

| | コメント (0)

山本まさき/古田雄介◆ウィキペディアで何が起こっているのか

20090131whikipedia

これまで、権力に徹底的に対立し社会を革新し、不甲斐ないマスコミの代わりに代表的な反権力であり続けたソーシャルメディアは、今まさに岐路にある。

これまでマスコミは、とかくネットのことを「バーチャル」と呼び、現実社会のことを「リアル」と呼んで区別してきたが、それはある意味では本質を捉えた区分だった。〔…〕。

今、ソーシャルメディアは単なる反権力としての立場を終え、次のステージに進みつつある。それは反権力としての力を維持しながら、同時に政治、企業、マスコミといった権力との融和も見せる、第2のステージだ。

このステージではネットとリアルの社会は密接にかかわり、もはやネットは社会の一部分となる。「バーチャル」という区分は存在しなくなり、代わりに、ただの「ツール」になる。〔…〕

そんな中、実はウイキペデイアはソーシャルメディアの第2のステージに最も近い場所にある。

「極めて中立的な百科事典を作り上げる」という目的を通じて作り上げられた仕組みと、それを取り巻くコミュニティは、まさにリアルとネットの融和の足がかりになる中立地帯でもあるのだ。

だがそれゆえに、ウイキペデイアにはさまざまな問題が噴出する。

*

*

◆ウィキペディアで何が起こっているのか――変わり始めるソーシャルメディア信仰|山本まさき/古田雄介 |オーム社 |ISBN9784274067310 200809

★★★★

《キャッチ・コピー》

無料の百科事典サイト、ウィキペディア(Wikipedia)は近年広く使われるようにな ってきている。しかし、ウィキペディア日本語版の運営は謎に包まれている。ウィキペディアにまつわる疑問を明らかにし、さらにはソーシャルメディアが抱える問題に切り込んでいく。

ピエール・アスリーヌ/佐々木勉:訳■ ウィキペディア革命――そこで何が起きているのか?

| | コメント (0)

津野海太郎◆おかしな時代――『ワンダーランド』と黒テントへの日々

20090128tsonookasina

学齢まえの「講談社の絵本」にはじまり、漫画や童話、『巌窟王』『家なき子』『あゝ無情』といった世界名作のリライト本、

江戸川乱歩の「怪人二十面相」シリーズなどをへて、貸本屋で借りた時代小説や探偵小説への耽溺、並行して夏目漱石や芥川龍之介や太宰治、

そして高校生になるとカミュやヘミングウェイやカフカ、岩波新書、うんと背伸びしてマルクス主義や実存主義の本にも手をのばすようになる。

単純なものから複雑なものへ――。

受け身のたのしみから、なけなしの知力や想像力をギリギリ駆使しなければ理解できないものへつまりは「やわらかい本」から「かたい本」へ――。

そうした「読書の階段」とでもいったものがあって、あっただけではなく社会的に公認されてもいて、私などもその階段を一段一段のぼってゆくことに、なにがしかの快感をおぼえていたのである。〔…〕

で、そうやって読書の階段を先頭きってのぼってきた連中が出版社に就職して編集者になる。とうぜんかれらは、単純ではなく複雑な本、子どもっぽい本ではなくおとなの本、たんなる娯楽ではなく危険で挑戦的な本をだしたいとかんがえる。

――植草甚一? いいけど、わざわざうちでだすことはないんじゃないかな。

そんな編集者が圧倒的多数をしめていたのである。だからいまとは正反対。かくして読書の階段の閉鎖的な世界が完結し、植草さんはやむなく偏屈で貧乏なダンディとして生きるほかなくなる。とまあ、そういった感じだったのだ。

ところが、この階段が60年代の進行とともにしだいにくずれはじめた。

――「サブカル第一世代」

*

*

◆おかしな時代――『ワンダーランド』と黒テントへの日々|津野海太郎 |本の雑誌社 |ISBN9784860110864 200810

★★★★

《キャッチ・コピー》

1973年、伝説の雑誌「ワンダーランド」創刊。植草甚一、平野甲賀、片岡義男、小林信彦、岸田森、悠木千帆、唐十郎、長田弘……<若者文化>が「生まれ」た。日本のサブカルチャーを誕生させた編集者が綴る、始まりの、話。

memo

1970年代、私も晶文社ファンだった。植草甚一『ぼくは散歩と雑学がすき』(1970)、『東京のロビンソン・クルーソー』(1974)など。本書ではブローティガン(藤本和子訳)『アメリカの鱒釣り』(1975)の出版経緯にも触れている。

高平哲郎■ ぼくたちの七〇年代

高平哲郎構成編集/宮崎三枝子■ 白く染まれ――ホワイトという場所と人々

リチャード・ブローティガン■ アメリカの鱒釣り

坪内祐三■ 後ろ向きで前へ進む

| | コメント (0)

平敷安常◆キャパになれなかったカメラマン(下)――ベトナム戦争の語り部たち

20010122hirashikikyapa02

私はテリーとサムの遺体の区別さえできないほど動揺、混乱していた。

しかも確認しにくい理由を、自分の溢れ出る涙のせいにした。傷んだ美しくない遺体を、美しい遺体と思うように自分に言い聞かせ、いつの聞にかそう思い込み、テリーの友人たちにもそう書いて報告していたようだ。〔…〕

しばらくしてテリーの母親が、テリーの弟嫁のポーリーと、ウィニイを連れてサイゴンの私を訪ねて来た。〔…〕

そのときも私は母親の願いを聞き入れなかった。危険な最前線のクアン・チの現場に、どうして連れて行けようか。テリーが過ごしたり、楽しんだり、生活したりしたサイゴンの街で、彼にゆかりがある場所を数日間案内した。〔…〕

テリーの話はつきない。いつかテリーの物語を書くとテリーの母親に約束してから35年が過ぎた。私のこのカメラマンとしての回顧録は、その約束から始まったのである。

目標だったテリーにはいまだに追いついていない。追いつけるはずがない。そして、追いつく必要もない。

――第21章 悲劇

*

*

◆キャパになれなかったカメラマン(下)――ベトナム戦争の語り部たち|平敷安常 |講談社| ISBN9784062149662 200809

★★★★

《キャッチ・コピー》

戦争報道に賭けた青春群像とさまざまな戦後 沢田教一、一ノ瀬泰造、テリー・クー、テッド・コッペル……著者が戦場で競い、ともに働いた仲間たち。友情と懐旧の念を込めて語る、知られざるエピソードの数々。戦争報道に賭けた仲間たちの“戦後”までを物語る。

平敷安常◆キャパになれなかったカメラマン(上)――ベトナム戦争の語り部たち

| | コメント (1)

平敷安常◆キャパになれなかったカメラマン(上)――ベトナム戦争の語り部たち

20090121hirashikikyapa01

戦場で走るという行動は、慎重に状況を判断してからでしか、とってはいけないのだ。

従軍しているときに突撃や進撃、退却などの場合は走らないといけないが、ふだんは走らない。慌てて「修羅場」で走れば、味方の兵士にさえ撃たれかねないときもあるのだ。〔…〕

走って逃げたいところを我慢してゆっくり歩いて、危ない所から遠ざかる、

これは、戦争を取材した経験から学び取った沢田を始め、ベテラン・カメラマンたちの知恵の一つであった。〔…〕

フロッシュ記者の遺体は、自然な形で横たわっていたが、沢田教一の遺体の両脚は、走りかけているように、曲がっていたのが不思議だった。〔…〕

二人とも近くからピストルのようなもので撃たれており、沢田の身体には、78発の弾が撃ち込まれていたと検視の結果で報告されている。〔…〕

彼の両脚は、どこへ行こうとしていたのだろうか? 前線では走ってはいけないと私に忠告したのは、沢田だった。

沢田教一の最後の走りかけたままの両脚の形が、何を意味するか私は知りたかった。彼だけが説明できる最後の瞬間だった。誰が、何のために、なぜこの二人を殺したのか。

――第11章 走るな、歩け!

*

*

◆キャパになれなかったカメラマン(上)――ベトナム戦争の語り部たち|平敷安常 |講談社| ISBN9784062149655 200809

★★★★

《キャッチ・コピー》

196575年、大型TVカメラを肩に戦火の10年を駆け抜けた日本人がいた。「ジャーナリストのせいでアメリカは負けた」とまでいわれたベトナム戦争。その現場を誰よりも知る米ABCテレビの名カメラマンが記す、「語り部たち」の物語。

| | コメント (2)

野中広務/五百旗頭真/伊藤 元重/薬師寺 克行◆野中広務――権力の興亡

20090118nonakakenryoku

――特に国旗国歌法は、小渕首相が「法律にするつもりはない」と言ったのに、直後に野中さんが法制化を打ち出した。〔…〕

野中 衆議院と参議院で僕は1人で野党の質問に答弁した。そうやっていると、小渕さんが言った「国旗・国歌は国民の中に深く定着しているから法制化は考えていない」という言葉の意味は大きいなと改めて思った。

法律にしてしまうと、次に法律で変えることができるわけです。法律にしていなければ変えることはできない。そう自問自答していました。しかし、もう出してしまったものは仕方ないと思っていましたね。これは今だから言える話ですけど。

――法律で変えることができるというのはどういう意味ですか。

野中 一度法律をつくると、その法律を変えられるわけです。なくしてしまうこともできれば、「国旗はこれだ」といって新しい国旗をつくることもできる。

つまり、時がたてば何が起きるかわからないという怖さがあるわけです。

――小渕さんが言いたかったことは、国民の心の中に染み込んだものは簡単には変えられないということですね。

野中 そう。結局は小渕さんのほうが正しいと思います。法律を説明して歩きながらそう思った。でも、今さら戻られへんもんね。

――第6章 官房長官として

*

*

◆野中広務――権力の興亡|野中広務/五百旗頭真/伊藤元重/薬師寺 克行|朝日新聞出版 |ISBN9784022504142 200803

★★★★

《キャッチ・コピー》

90年代の日本政治、自民党政治の主役ともいえる存在だった野中広務が、当代きっての政治学研究者たちに対して初めて明かす、政治の裏表。政治の表舞台の裏で何が起きていたのか。様々な事実が明らかになる、貴重な証言がつづく。

魚住昭 ■ 野中広務 差別と権力

| | コメント (0)

浅田次郎◆つばさよつばさ

20090115asadatubasa

わが国においても、人間がおしなべて暴力的になったことはたしかであろう。

倫理感の欠如であるとか、教育の不備であるとか、果てはテレビや映画やゲームの影響であるとか言われるけれども、私は何をさし置いても、感情を制御し担保するだけの言語力の低下が主たる原因であろうと思う。

言葉は明らかに退化しているのである。〔…〕

本来は対面して語りかつ聞くべきである言語が、電話機の登場によって対面せずとも可能になり、さらにコンピューターの普及によって、対面もせず語りもせずに意思の疎通が図れるようになった。〔…〕

言葉の今日的な退化とは、おそらく活字ばなれに起因しているのではなく、対面して発声することのなくなった対話の実態が、最も重大な原因なのではないかと私は思う。〔…〕

この現実に活字ばなれが加われば、感情を制御し担保するだけの言語は失われ、そのとたんに人間は暴力による感情表現をなさねばならなくなる。

――「他人の空似」

*

*

◆つばさよつばさ|浅田次郎 |小学館 ISBN9784093877442 200710

★★★★

《キャッチ・コピー》

1年の1/3を旅の空に過ごしている。「旅」を綴った珠玉のエッセイ集。J

浅田次郎■ 月島慕情

浅田次郎■ 憑神

| | コメント (0)

ダニエル・ロー◆竹島密約

20090112danieltakesima

竹島・独島問題は、解決せざるをもって、解決したとみなす。したがって、条約では触れない。

(ィ)両国とも自国の領土であると主張することを認め、同時にそれに反論することに異論はない。

(ロ)しかし、将来、漁業区域を設定する場合、双方とも竹島を自国領として線引きし、重なった部分は共同水域とする。

(ハ)韓国は現状を維持し、警備員の増強や施設の新設、増設を行わない。

(二)この合意は以後も引き継いでいく。

竹島密約は、二つの意味で失われた。

一つは、河野一郎が書き、丁一権を通じて朴正熙に伝えた取り決めの文書そのものが失われた。これを「紙の喪失」と呼ぶことにする。

しかし、これよりもっと深い意味をもつのは、竹島密約の趣旨や精神を韓国側が継承できなくなったことである。竹島密約を生み出した「精神の喪失」である。

*

◆竹島密約|ダニエル・ロー |草思社|ISBN9784794216793 200811

★★★★

《キャッチ・コピー》

1965年、日韓の国交正常化が実現した。その5カ月前、交渉の最後の難問だった竹島(独島)問題が、河野一郎国務大臣と丁一権総理の交わした密約をもって決着をみた。それは「解決せざるをもって、解決したとみなす」との「棚上げ」策を骨子としていた。韓国政府公開の新史料と関係者の証言を駆使して、密約合意にいたる全プロセスを描き、金泳三政権がなぜこれを受け継げなかったのかをも鋭く考察した力作ドキュメント。

高月靖◆徹底比較日本vs.韓国

木村幹◆韓国現代史――大統領たちの栄光と蹉跌

| | コメント (0)

高月靖◆徹底比較日本vs.韓国

20090110takatukikankoku

8090年代にかけて大統領を務めた全斗煥(チョンドファン)と盧泰愚(ノテウ)2人は、続く金泳三(キムヨンサム)政権下でクーデターや民主化運動弾圧などの法的責任を追及された。

法廷に並んで立たされた2人の姿は日本でも報道されたが、そこでちょっとした違和感を感じた日本人は多かったかも知れない。

というのはともに60歳を過ぎた大統領経験者2人が、恋人同士のように手をつないでいたからだ。〔…〕

だが韓国では男性同士が手をつなぐのも、あくまで腕や肩を組むのと同じスキンシップの一つ。

*

*

◆徹底比較日本vs.韓国|高月靖 |河出書房新社 |ISBN9784309244464 200808

★★★★

《キャッチ・コピー》

日本との共通点が多い一方、相容れない異質さも持ち合わせた国――韓国。日韓の思想や文化を、社会、風俗、人間関係、地理、歴史、言葉、食べ物、政治経済、娯楽の9つのテーマから徹底的に比較する。

| | コメント (0)

ティム・ワイナー◆CIA秘録(下)――その誕生から今日まで

20090109cia2

CIAは十年余りもイラクの兵器問題に取り組んでいたのに、テネット[長官]は開戦間際に、ジョージ・ブッシュとコリン・パウエルを訪ねて、厳然たる事実を装った偽りを振りかざしたのだった。

悲劇的だが、これがテネットの遺産だった。結局、CIAが――「政治的理由や、国を戦争に向かわせようという卑しい望み」からではなく、その無能さのために――間違っていたことを、テネットは認めた。「われわれは目的を果たせなかった」。

その失敗の意味を、CIAの首席兵器査察官だったデービッド・ケイが包み隠さずこう説明している。「われわれは戦争に勝つためには諜報機関が重要だと思っている。

だが戦争は諜報機関によって勝てるものではない。戦場に送り出す若い男女の生命、財産、勇気があって勝てるものだ……諜報機関がうまく機能しているときの、その真の役割は戦争を回避することである」。

つまりは、その点こそが諜報機関としてのCIAの根源的な失敗だったのだ。

*

*

◆CIA秘録(下)――その誕生から今日まで|ティム・ワイナー/藤田博司 |文藝春秋 |ISBN9784163708102 200811

★★★★

キャッチ・コピー》

5万点の機密解除文書。10人の元長官を含む300人以上のインタビュー。すべて実名証言で書かれた「CIAの本当の歴史」CIAの秘密工作がいかに失敗を重ね、アメリカの国益を損ない、それをいかに隠蔽したかを暴露。

ティム・ワイナー◆CIA秘録(上)――その誕生から今日まで

src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?t=kamihikoki-22&o=9&p=8&l=as1&asins=4163708103&fc1=000000&IS1=1<1=_top&m=amazon&lc1=0000FF&bc1=FFFFFF&bg1=FFFFFF&f=ifr" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0">

| | コメント (1)

ティム・ワイナー◆CIA秘録(上)――その誕生から今日まで

20090108cia01

本書は、CIAの創設から60年間の記録である。西洋文明史上最強の国が、いかにして一級の諜報機関を作ることに失敗したのかが、綴られるそしてこの失敗は、アメリカの安全保障を危機に陥いれている。〔…〕

エドワード・ギボンは『ローマ帝国衰亡史』のなかで、歴史は「そのほとんどが人類の犯罪、愚行、不運の登記簿にほかならない」と書いている。CIAの歴史は、勇敢、狡猾な行動とともに、愚行と不運に満ちている。

海外ではつかの間の成功と、長く後を引く失敗の物語にあふれている。国内では、政治闘争と権力闘争の記録である。〔…〕

2001911日には、ニューヨーク、ワシントン、ペンシルベニアで、約3千人が死亡した。その後のイラクやアフガニスタンで亡くなった人たちは、さらに3千人を超える。CIAがその中心的な使命を遂行できなかった罪が、いまだに長く尾を引いているのだ。

その罪とは、世界で何が起きているかを大統領に報告できなかったことである。

*

*

◆CIA秘録(上)――その誕生から今日まで|ティム・ワイナー/藤田博司|文藝春秋 |ISBN9784163708003 200811

★★★★

《キャッチ・コピー》

匿名情報、噂の類は一切なし。機密解除文書5万点。元CIA長官10人を含む諜報関係者300本以上のインタビューによって書かれた 第一級の歴史書にして衝撃の黙示録 ! 諜報機関を20年以上にわたって取材した調査報道記者が、その誕生から今日までのCIAの姿を全て情報源を明らかにして描いた衝撃の書。

| | コメント (0)

原武史◆昭和天皇

20090103harasyowa

天皇と高松宮との確執もまた、ますます激化した。〔…〕

[452]天皇は重臣から意見を聞く機会をようやく設けた。〔…〕

近衛の主張は、高松宮と一致していた。「モウ一度戦果ヲ挙ゲテカヲデナイト中々話ハ難シイト思フ」と述べた天皇に対して、近衛は、「ソウ云フ戦果ガ挙ガレバ誠ニ結構卜思ハレマスガ、ソウ云フ時期ガ御座イマセウカ」と答えた(前掲『木戸幸一関係文書』)。〔…〕

そのころ沖縄では、激しい地上戦が繰り広げられていた。[45]41日から沖縄本島への米軍上陸が始まり、7日に小磯内閣に代わり鈴木貫太郎内閣が成立しても、天皇の戦争継続の意思は揺るがなかった。

天皇は、たとえ沖縄戦に敗れても、「唯一縷の望みは、『ビルマ』作戦と呼応して、雲南を叩けば、英米に対して、相当打撃を与へ得るのではないか」(前掲『昭和天皇独白録』)と考えていたようである。

*

*

◆昭和天皇|原武史 |岩波書店 |ISBN9784004311119 200801月|新書

★★★★

《キャッチ・コピー》

新嘗祭、神武天皇祭など頻繁に行われる宮中祭祀に熱心に出席、「神」への祈りを重ねた昭和天皇。従来ほとんど直視されなかった聖域での儀礼とその意味に、各種史料によって光を当て、皇族間の確執をも視野に入れつつ、その生涯を描き直す。第12回司馬遼太郎賞。

| | コメント (0)